”さいますみ/崔真淑”のオイコノミクス

Good ・ News and Companiesの”マクロエコノミスト崔 真淑 / さいますみ”です!資本市場、そして経済学の社会的意義を伝えるのが使命です!身近な話から資本市場の最先端の話まで皆様と一緒に考えていきます!ご連絡先はこちら→info@goodnews.jp.net

なぜ、世論調査は外れることがあるの?を、エコノミスト線で考えてみた~米大統領選挙の事前調査からの反省!バイアスと有効性はトレードオフ~

<追記>

このブログは、隠れトランプがいたからでしょの一言で終われば、今後の調査、予測に活かされず終わってしまうとおもい書きました。

応用を利かすには、理論ベース思考が必須。今後に私自身も活かしていきたいです。

 

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 みなさま、こんばんは。

 Good・News and Companiesの、マクロエコノミスト崔真淑(さいますみ)です。

 11月9日は歴史的瞬間になりました。SNS上コメントを見ると、アメリカ国内でも大統領選挙の結果について、意見が明確に分かれているのが印象的です。

 選挙直前までトランプ氏追い上げは報道されていたものの、クリントン氏勝利を考えている方が多かったと思います。でなければ、為替がこんなに乱高下しないですよね。あらゆる通貨の逃避先?のビットコインは、対円ですら上昇中。

 そして、改めて感じたのは、選挙などの事前調査と私達は付き合い方です。私は二つの基準を意識することが重要だと痛感しました。

 それは、バイアス」と「有効性」という2つの計量経済学の基準です。これが世論調査が外れるきっかけになる場合もあるし、把握しておかないと情報をミスリードする可能性があるのです。

 

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(写真はWIKIPEDIAより)

 

バイアスとは?

 バイアスとは、偏りがないこと。専門用語では、不偏性と言います。ある手法によって、何かしらの調査を行うとします。この時、何度も繰り返し同じ手法を繰り返し、そこから得られた結果が平均的に正しい答えならば「バイアスが無い」と言えます。

 例えば、明らかに保守勢力が多い地域からだけ取得した事前調査は、バイアスがかかっていますよね。その他には、特定の曜日だけの調査となると、その曜日には出てこないだろう層だけ漏れていたり…

 何を簡単な話をいってんねん!て思う方もいるかもしれません。いやいや、これはけっこう奥が深いのです。事前調査におけるバイアスには2種類あることを抑えるのが重要なのです!

 

*2種類のバイアスって、なんだ?

 それは「統計的バイアス」と「実質的バイアス」の2つです。なかでも、後者がネックになることが、肌感覚でも多いと感じます。前者は、まさに上述したお話し。

 後者は、構造的な話です。例えば、日曜日にしか選挙が行わない地域があるとします。でも、宗教上の理由から日曜日に大きな行動が出来ない人もいます。つまり選挙制度がもたらすバイアスなどが当てはまります。

 今回の世論調査では、米国のあらゆる報道機関が事前調査を発表していますが、この2つが複雑に重なったことが世論調査と、選挙結果の差にあるようにも思います。それぞれの報道機関が、いくらランダムに事前調査をしたといっても、国土が広く、様々な人種が存在するアメリカでがバイアスはかかりやすいと思うのです。

 保守に受けるメディアと、そうでないメディアでは、ネットや電話でランダムにアプローチするといっても、アプローチ可能層は変化するはず。極端な例ですが、ザ・株新聞と地方新聞では、アプローチ可能な層が違っても不思議ではないでしょうよ…。 

 その他には、一次情報は宝の山なんていいますが、情報提供者がバイアスを掛けている可能性もあります。(ちなみに、これを如実に表している論文では、これが有名みたいです)

 もちろん、アメリカの世論調査バイアスを加味するために複合的に見る必要がるとは聞きます。しかし、無数に報道機関があるわけではないので、ちょっとした異常値に総合的指標が引っ張られることもあるわけです。

 どこの報道機関が、どの地域に受けやすく、どの層に受けやく、どれぐらい販売数が変化しているか…これらを抑えて世論調査をくみ取らなくてはいけなかったと反省している私です。

 

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(レギュラー番組のテレビ東京「Mプラス11」では、驚き過ぎて噛んでしまいました…。怒っているわけではないです(汗)写真はTwitterでフォローしてくださってる、関西人NEOさんより)

 

*もう一つの有効性とは?

 有効性とは、調査結果から出てきた結果(ここでは推定量)の良し悪しを判定する基準です。調査結果の分散(ばらつき)が小さいと、良いと判定出来るかもしれません。

 上述したバイアスを減らすには、どうすべきでしょうか?それは、調査情報を可能な限り増やすことです。とにかく収集できるデータは、沢山集めて来いということです。そうすれば、分散が低下して良い調査と言えるでしょう。しかし、これは集めてくる調査情報が、全て同一の条件下で収集されていればの話です

 でも、そんなことは現実世界ではできないですよね。多くの調査結果を集めるほど、非常にバイアスがかかっている情報を取得して、結果が大きくゆがんでいるかもしれないのです。

 

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(国土が広く、人種が多様な米国では、その地域、層に受け入れやすい報道機関に歪みがある!?

 

 じゃあ、バイアスがほとんどかかっていない少数のデータだけを使えば良いのでしょうか?その場合、もしかしたら重要な情報が失われているかもしれず、有効性が失われるかもしれないのです。

 つまり、バイアスと有効性はトレードオフの関係にあることを抑えないといけないのです。各種報道機関の調査結果をとにかく集めることも重要ですが、偏った調査を行った報道機関がないのかを精査しないといけないわけです…

 

 今回は、調査結果を沢山集めるだけでなく、KEYとなるだろう州において、影響力の強いだろう、または調査リーチ可能な層が多いだろう調査機関はどこだったかを、事前にリサーチし、それから大統領選挙の結果予想を、自分なりに考えるべきだったと反省しています。

 バイアスと有効性はトレードオフということを、もう一度胆に銘じたいです。

もちろん、予想が出てきたがために結果を変えてしまうことや、他の理由もあると思いますが、一つの要因として今回はこの話を書きました。

 

ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

いつも、応援ありがとうございます!

 

崔真淑/さいますみ

 

AIは人間と代替可能になり、仕事が奪われるー!という前提について思うこと。

 みなさま、こんにちは!

 おかげさまで、講演、イベント、某局地上波…と、様々な場所で活動をさせてもらってます。本当にありがとうございます!

 こうした活動のなかで、必ずと言っていいほど聞かれるテーマがあります。それは、AI(人工知能)の経済・雇用への影響です。今回は、AIが仕事を奪う!という論調に対して、私が思うことを徒然にまとめさせてもらいます。

 

*IBM7-9月決算の衝撃

 現在は、アメリカ企業の決算発表シーズンです。昨晩、IBMが発表を行いました。第三四半期の7-9月期は売上高は192億ドルと、前年比0.2%減でした。しかし、18四半期連続で低迷していた業績が回復の兆しが出ています。

 牽引したのは、クラウド事業、人工知能プラットフォームWatsonです。売上高の約半分がこの事業が牽引し、前年比二桁の伸びという結果に…。大企業が、この伸びを持つってすごいですよね…

 IBMは完全なソフト会社として進んでおり、ここまでAI関連事業が急速に広がっているのに改めて驚きでした。以下のCEO発言が、それを物語っています。

Whether it is banks implementing IBM blockchain solutions, hospitals leveraging Watson to fight cancer, or retailers using cognitive apps built on the IBM Cloud to transform the customer experience, clients across all industries are tapping into a new kind of innovation value from IBM.

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(写真はWIKIPEDIAより。IBMのWatson)

 

*AIに人間の仕事が奪われるという前提に、思うこと…

 FT記事によるとIBM側は2017年も、上記事業部で同様の伸びを予想していると…。

これだけAI事業が伸びると毎度の如く、『私の仕事が…』という話が振られます。

 はい。私も不安です。しかし、AIに仕事が奪われるという話だけでなく、補完されることで生産性、雇用、収入が増え、更にはマクロ経済におけるTFPにどう影響するかをもっと議論すべきと思っています。 

 更には、AIと人間を代用可能なものと見がちですが、これは違うと思います。これは、一方のコストが上がれば、もう一方に置き換えればいいという前提に立っていると思うからです。

 これが通用するのは今日も明日も…ずっと先の仕事も同じように広がり、同じようにコストが掛かるという前提の静的な世界ならば成立します。でも、んなわけない!

 

*AIと人間の代替性は、時代によって変化する

 例えば、証券営業について考えてみたいと思います。最近では、ロボアドが主流になりつありますが、それをネット経由で活用できるのは、投資に既に一歩踏み込める層だったり、経験者です。

 でも、売上高を伸ばすには新規の顧客獲得が必要なわけです。データでアプローチすべき最適な層が算出されます。そうした層にアプローチする速度は上がるでしょう。しかし、まずは「なぜ投資なのか?」を考える場を提供し、更には人間味を活かした顧客獲得が必要に…

 新規顧客を獲得する場面では人間力が要になることが多いだろうし、既存顧客がメインならば掛かるコストも前者と違うはずです。

 つまり、AIと人間の代替性って時代やトレンドによって変化すると予想されるし、コストが見合わない場面ではAIと人間が完全に代替することもないと思うんですよね。

 例えばAI的には顧客対象としてアウトでも、実はものすごい大富豪を顧客として取り逃がすことだってあるかもしれません。なーんていう異常値を発見するために分析コストをかけるより、人間を使った方が合理的かもしれません。でも、そんなことあるんかいな!と思いきや…

 

 アメリカでは、公務員からフリーになった前FRBバーナンキ議長を融資対象として、銀行がアウトにしたことが話題になりました。億単位の講演、執筆依頼のオファーがあったのにです。でも、これを人間が終始どこかで対応していたらどうなっていたでしょうか…。 

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(注:完全にAIが人間の仕事を奪いマクロにAIによる雇用の影響は、別の機会に議論させてください。また、人間の感情も真似でき、ほぼ人間と言えるロボットが登場することは前提にせずに書いてます。)

 

*これからの経営陣に必要なもの…

 上記のことをまとめると、これからの経営陣に必要なスキルは、AIと人間の代替性がどのポイントまでは有効で、どのポイントからはコストがかかるのか。更には、その視点を活かすために、異常値を見つけた時対応と、常にAI君に合理的に働いてもらうための正しい問いを出し続けることが必要なのかなと思います。

 エイボン社外取締役として、半年が経過しましたが、こうした視点も考えながら経営参画していきたいところです!

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長い文章を読んで下さり、ありがとうございます!

そして、いつもありがとうございます!引き続き精進します!

 

崔真淑/Masumi Sai

4月からの活動を振り返って学んだこと!~なぜ「話す」には、「書く」が必要のか?~

 みなさま、こんばんは!Good ・ News and Companies Inc. の崔真淑(さいますみ)です。おかげさまで、この4月から新し活動をさせて頂いてます。本当にありがとうございます!今回は、そんな活動のご紹介と、そこからの学びを書かせてください!

 

*4月からの活動とは~?

 有り難いことに、4月から始まったレギュラー番組や連載があります。まずは、NHKラジオ第一「マイあさラジオ」にて、コーナー「崔真淑のお金のヒント」を担当させて頂くことになりました。

 嘘のような本当の話なのですが、私は同番組の超ファンのだったのです…。レギュラー番組の関係で、朝が超絶早い私にとって、この番組は貴重な存在。早すぎる朝(朝3時半起きとか…)を迎える日は、「マイあさラジオ」より速い「ラジオ深夜便」で朝を迎えることもあります。

 初回は、4月から値上がりした物をフックに、この経済環境とどう向き合うべきかをお話ししました。国民年金保険料、健康保険(会社員加入)、介護保険料引き上げと続いていますよね。長く、そして健康に働き続けるためには、やっぱり健康投資。経済学の研究を紹介しつつ、健康投資の在り方についてお話ししました。

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(画像はNHKラジオ第一「マイあさラジオ」のHPです。ぜひ、ご視聴よろしくお願いします!)

 

*その他には、どんな活動を?

 そして、新連載も始まりました!日経ウーマンオンラインにて「崔真淑の女子とキャリアの経済学」です!働く女性の経済環境や、コーポレートガバナンス研究の一環として取締役会の多様性について研究してきた経験なんかも書かせてもらってます!毎週水曜日更新です!

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(画像は日経ウーマンオンラインにて「崔真淑の女子とキャリアの経済学」ぜひ、よろしくお願いします!)

 

*メディアの活動以外では?

 化粧品会社エイボン・プロダクツ社外取締役に就任して、業務の幅も広がりを持たせて頂いてます。社外取締役の役割は、外部だからこそのアドバイザー機能と、ガバナンス機能。しかし、外部だからの視点だけでなく、現状のビジネス運営や現場を知ることで、その機能は更により良くなっていくと感じます。エイボンメンバーさんのアワード表彰会に参加する機会をただき、ユーザーの方々から率直な意見を聞かせていただきました。

 

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(写真は取締役会長、執行役員の方と!アワード表彰会にて!

 

*で、そこからの学びとは??

 当たり前ですが、私は仕事上で沢山喋るし、話をします。番組ではもちろんですが、取締役会や様々な場面で、自分の意見を述べるために「話す」という行為をしています。じゃあ、その「話す」という行為において、結果を残すためにはどうしたら良いのか。これも自明ですが、徹底した準備です。

 そして、改めて思ったのは、その準備には「書く」という行為がマストだということです。頭で考えるだけでなく、自分の思考プロセスや、自分が経てきた経緯、自分がこうだと思う論理構成を、とにかく書く!ということです。なぜでしょうか?

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(画像はPublic DomainPictures.netより)

 

 考えを文章化するということは、後で読む自分や、その他の読み手を意識します。そして、読み手はリニアー(直線)にしか読めません。どこかに重要なことが書いてあるから、とにかく舐めるように文章をよんでね~!よろ~!なんていかないのです。読み手は、写真やビジュアルを見るように面を眺めるようには、文章を読めません。上から縦に直線にしか文章を読めません。

(字で絵を描いたとか、速読はどうなんやとか、そういう特殊ケースは横において置いてね。)

 人間は縦にしか読めないとなると、論理的に繋がっていないと文章を読み進めることができません。つまり、文章にするということは、思考していた内容の順序が意識されるのです。書き始めると、強制的に論理的にさせられてしまうんですね。思考内容を文章にすると、いろんな矛盾に気付いたり、更には意外なアイディアが浮かんだ経験は少なくないと思います。

ということで、更に書いて書きまくって、思考を深めて仕事を精進しつつ、社会に還元していきます!文章構成力は、まだまだ修行が必要ですが…

いつもありがとうございます!

引き続きよろしくお願いします!

 

崔真淑/さいますみ

 

 

 

 

 

4月から新しいスタートを切りました!そこで、コーポレートガバナンスについてウーマンエコノミスト目線で考えてみた。

 みなさま、こんばんは!グッド・ニュースアンドカンパニーズ代表で、マクロエコノミストの崔真淑/さいますみです。おかげさまで、2016年も活発に活動させて頂いてます。今回は、4月から新しいスタートを切った御報告と、それに関してコーポレートガバナンスについてウーマンエコノミスト目線としての問題意識を記していきます!

 

Q1 で、4月からの新しいスタートとは?

 実は、4月から化粧品会社AVONの社外取締役に就任しました。何かとコーポレートガバナンスが話題になる昨今です。AVONの企業価値向上のためのアドバイザー機能としても、資本市場の貢献のためのガバナンス機能としても精進していきます。貴重な機会に恵まれたことに感謝です!

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 AVONの企業理念は”the company for women”。自分の可能性を信じ、前向きに生きる女性を応援していくことです。この4月から女性活躍推進法が施行され、日本の働く女性の環境整備が更に必要になっています。働く女性としての等身大の経験と、これまで培ってきた経済学・ファイナンスの学びを活かしコーポレートガバナンスの観点からも頑張ります。

 

Q2 って、そもそもコーポレートガバナンスって、なに?

 今年に入ってからも、コーポレートガバナンスという言葉を沢山聞きますよね。7&iHDの話はもちろん、東芝、クックパッド…etc。そもそも、コーポレートガバナンスとは何であり、なぜ必要なのでしょうか?

 ビジネスにおいて画期的な仕組みといえば、株式会社です。これにより、アイディアはある!でもお金はない!という主体と、お金はある!でもアイディアはない!という主体を結びつけることを実現しました。つまり、株式会社=経営と所有(出資者)の分離を可能にし、ビジネス運営のリスク分散を可能にしました。結果、社会の発展に大きく寄与したのです。でも、何かを得れば何かを失います。欠陥もあったのです。

 経営者と出資者を分離したことで、出資者が意図しないところで経営者が自己利益のためだけに行動しかねないリスクがでてきたのです。そこで、出資者が経営者を監視する仕組みとしてコーポレートガバナンス企業統治)の仕組みを改めて制度化し、資本市場の活性化に繋げようとしているのが、今の日本です。
 
Q3 ふーん。で、それをウーマンエコノミスト目線でどう考えているの?

 この3月に修士論文を書き上げ、一橋大学大学院ICS(MBA in Finance)を無事に修了しました。論文のテーマは、女性社外取締役コーポレートガバナンス企業価値の関係です。論文を書こうと考えるきっかけになった問題意識を、ここに記しておきます。

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(写真は、同じゼミ生のみんなと。先生と同級生のサポートのおかげで無事に修了!)

  コーポレートガバナンス強化として、経営者と出資者の分離による影響を監視するために、社外取締役の導入が国から促されています。一方で、上述したように4月から女性活躍推進法がスタートしたことで女性取締役の導入も、国から促されています。日本の女性取締役比率は、先進国の中でも非常に低い水準です。

 今後は、企業側が、この二つを満たすために女性社外取締役の導入を進めていく可能性があります。しかし、それって企業側にとってはメリットだけなのだろうか?変革の中で、思わぬことも出てくるんじゃないか?等々、思ったわけです。

 メディアを見渡すと、女性取締役と企業価値の関係はポジティブな報道が多いです。それに、女性登用を進める会社はイイ会社的な風潮も無きにしもあらず。そうした流ればかりが続けば、女性登用を進めたことで想定外のことが起きた時に、社会や職場の多様性推進にストップが出かねないと感じたのです。客観的に、どんなメリット・デメリットがあるかを分析して、それを伝えたいというのが私の課題意識でした。

 

Q4 で、女性取締役と企業価値に何か関係はありそうなの?

 論文を書くには、先行研究サーベイが必須。各国の関連論文を集めてみると…

 女性取締役と企業価値には、明確な理論は見当たりませんでした。資源依存理論、エージェンシー理論…いろんな立脚点から女性取締役と企業価値について沢山の実証研究がなされてきました。しかし、その結果は、業種・国・文化・時代…によって様々であり、女性取締役導入=企業価値アップは、常に成立しうるものではありませんでした。

 女性取締役の数と、ROAROEに正の相関があるグラフを見たことがある人は少なくないと思います。でも、それらは計量経済学的な手法を用いて、業種・国・文化・時代といった要因を取り除かずに分析された結果である物が多いと思われます。

 その他には、ちょっと衝撃的な論文も存在します。企業価値の代理変数としてROAと女性役員・管理職の多さの関係を分析している論文がありました。それによると、日本の製造業においては、ROAと女性役員・管理職の多さは正の相関を見せていました。でも、要因を分解してみると…女性雇用促進による人件費節約効果がROAに効いている可能性を示しており。。

 日本の女性は男性に比べて平均賃金が低い傾向にあります。これは、欧米先進国でも見られる傾向でもあります。いろいろ考えさせれます。。

 

Q5 一方、女性取締役とコーポレートガバナンスには何か関係はありそうなの?

 こちらも明確にこうです!という理論は見当たりません。でも、非常に興味深く、肌感覚でも納得しやすい論文を紹介させてください。

 Adams and Ferreira(2009)は、1996年~2003年のS&P1500に採用されている 企業を対象に、女性取締役とコーポレートガバナンスの関係を分析しています。この論文では、高齢の男性だけの取締役会をold boys clubと揶揄しています。

 というのも、男性同士だとつるみやすいし、モノが言える雰囲気が作りにくいんじゃないの?ってことを暗に示しているんですね。(もちろん必ずしもいう場合ばかりじゃないと思いますよ!)そこに女性取締役が入ることで、異性だからこそ言いやすい場面や影響が存在しても不思議ではないのでは?という仮説があるわけです。

 そこで、取締役出席率や社長任期年数をコーポレートガバナンスの代理変数として分析しています。結果は、女性は高齢男性中心の取締役会=old boys clubに染まりにくく、存在その物が「独立性」を有し、モニタリング機能を果たしているといる可能性を報告していました。

 まとめてみると、女性取締役だからこその企業価値コーポレートガバナンスへの影響ってのは、メリットだけじゃないだろうけど、でも機能しやすい場面は確実に存在すってことですね。

 

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(写真はAVONの皆様と!素敵な方ばかりで、頑張るぞ!という気持ちになれました!皆さま、ありがとうございます!)

 

私も、経営層の方々に的確に発言できるよう頑張ります!一次情報は宝の山ですし、積極的に行動していく予定です。

なが~いブログを読んでくださり、ありがとうございます!

引き続きよろしくお願いいたします!

 

崔真淑/さいますみ

 

2015年の学びを2016年に繋げるぞ!~なぜ、社会人になると大学院に行きたくなるのか?~

 みなさま、こんばんは! 

 Good News and Companies代表で、マクロエコノミストの崔真淑/さいますみです。

2015年も数十分で終わります。今年も皆様のおかげで、無事に仕事を終えられました。ありがとうございます!今回は、2015年もっとも私に刺激を与えてくれた社会人大学院についてまとめます。(実は、それに関する相談も増えてきてます)

 

Q1で、今年はどんな一年だったの?

 先日、パートナー企業との忘年会がありました。各自の2015年を、動物で表現するという企画も行われました。私は「」と表現しました。鴨は、水中で水かきをもがきながら漕いで浮いています。今後も縁と仕事に巡り合うように、社会人大学院でもがいているところが、自分と重なるな~と思ったわけです。

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 現在、私は社会人大学院に通っています。そこでの学びは、直ぐに仕事に活かせる内容から中長期でジワジワ効いてくる内容まで様々です。また、学位を身に着けたからといって、いきなり劇的に変化が起きることは稀でしょう。そんなこともあり、仕事をしながらの通学は周りの理解も必要です。2015年は、いろんな人に助けてもらい、仕事もできたことに本当に感謝しています。重ねてお礼を申し上げます。

 

Q2鴨のようにもがく一年ですか…。で、なんで社会人大学院に行こうと思ったわけ?

 一言でいうと、知識をこれまでのように得ても、それによる限界生産性が低下していると年々感じていたからです。平たく言うと、一つ新しい知識を得たとしても、生産性の向上を感じなくなったということです。例えば、社会人三年目までは新しい知識や現場経験をスポンジのように吸収し、日々の成長を感じるものです。でも、その後は…なんてことを感じる方は少なくないのでは?

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 なぜ、こんなことが起きるのでしょうか?これは、仕事の現場から得られた知識や、経験が増えてくると頭の中で整理しきらなくなることが影響していると思います。それぞれの知識や経験が、どう繋がっているのか構造的に理解できなくなると、情報の海に埋もれます。結果、大量の情報が右から左に流れていくだけになり、考察力はもちろん、自分の強みすら見えなってくる… そんな危機感や、最先端の知の世界に触れ続けて、それを自分の強みにしたいと考えたことが進学の理由です。

 

Q3へー。実際に、頭の中はクリアになったの?

 ですね。いろんな理論を学ぶ機会があるのですが、自分がぼんやりもっていた概念を整理してくれます。例えば、その企業にとって最適な取締役会構成はどんな形か?と議論しようとしたら、それぞれが主観で話をすることになることが多いかもしれません。でも、理論の世界では取締役とは何と位置づけ、役割は何があるのかのフレームワークを与えてくれます。考える軸を与えてくれるんですよね。

理論なんて、現実の話に応用できるかよ!なんていう人は少なくないと思います。でも、理論といのはそのまま適用することもあれば、その理論が出てきた時代・問題背景を踏まえると、自分の考える軸を与えてくれるんですよ!!!

 

私は抽象度を高めた議論や、構造的理解をすることが非常に苦手でした。でも、社会人大学院に通えていることで、そうしたことや、沢山の仲間と縁を授かりました。

2016年も2015年に得てきた最先端の知を活かしつつ、新しい知識をインプットして、皆様にお役に立てれるよう精進します!

引き続き宜しくおねがいします!

 

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崔真淑/さいますみ/Sai Masumi

計量経済学を勉強して、反省したこと。なぜ、分析には「愛と勇気と直感力」が大切なのか?

 みなさま、こんばんは!

 Good News and Companies代表、マクロエコノミストの崔真淑/さいますみです

 今日は、私が勉強する中で、反省したことを徒然に書きます。戒めを込めて書きます。この経験が、誰かの役に立ちますように…。 (長いんで、Q1、4,5だけでも!)

  

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(写真は、WIKIMEDIAより。なぜ、FRB議長イエレン氏の写真があるかは、Q5で見えてきます(汗))

 

Q.1で、反省したことってなに?

 ただいま、修士論文作成に奮闘中の私です。データ収集はもちろん、実証研究論文を深読みしつつ、データ分析のための計量経済学の復習をしています。どんなモデル手法で分析すべきか、さまよっています。そんな、計量経済学に全力投球です!という時に、TwitterでBuzzっているAmzonレビューを見つけました。

www.amazon.co.jp

 レビューは、某国立大学の先生にTwitter上で教えてもらいました。レビューの中では、実証研究から解明できることは、あくまで平均的な傾向。結果に対する説明力は約5-15%程。計量経済学の結果から出てきた有意な説明力と、現実への説明力とは違う!ということが書かれています。計量経済学の手法から導かれた結果と、どう付き合うべきかを的確に示していると思います。

 マクロな政策というのは、平均的に効果の出る施策を行うことだし、政策関係者にとって計量経済学による実証分析は重要。個人レベルでは平均的な結果だけに囚われるのでなく、自分の環境と向き合い、残りの85%を埋めるために、どう努力するかをすべきでは?とヒントを示しています

 計量経済学で導かれる結果を万能とは思っていませんが、ここまで的確に整理できていたかというと…反省。。 なぜ、マクロな視点と、ミクロな視点を使い分ける必要があるのか。そして、社会科学との付き合い方が見えてきますよね。

 

注)ちなみに、本の著書である慶応義塾大学の中室先生は、NewsPicksプロピッカー第一期のお仕事でお世話になりました。献本して頂き、非常にわかりやすく、多くの論文や実証分析からの話が、俯瞰できます。まだ子供のいない私ですが、一つの指針にしたいと思ってます。 今回のブログは、あくまでレビューから考えた計量経済学との付き合いからにフォーカスしています。

 

Q.2これって、あなたの研究テーマでも同じようなことあるの?

 めっちゃ、あります。私の研究テーマは、上場企業を取り巻く制度変更と、それによる企業価値と雇用の変化について。アベノミクスが始まり、コーポレートガバナンスコードが制定され、女性の活躍が推進されました。国内の上場企業の環境は大きく変化しています。欧米では、こうした動きは既に起きており、海外論文を参考に研究を進めています。

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(写真は、精読中の論文さんたち~)

 

 精読中の論文には、女性取締役を義務化導入国の、上場企業の企業価値の変化や、ガバナンスが相対的に低い企業に、女性取締役が入った場合の影響…etcが測定されています。その他にも企業価値に関する論文をいくつか見ていますが、企業価値の予測や関係性を分析するために考えられたモデル(=その事象を解明しようと構築された、枠組みです)による、その企業価値の変化に対する説明力は10-20%ぐらいが多いですっ(`・ω・´)キリッ(論文は私が見た限りですけどね…。モデルの一例は→Y=α+β1X1+β2X2+εのような形をしたのとか)  

 

 

Q.3 説明力低くて、意味あるの??

 えー低い!と思うかもしれませんが、平均的な傾向と枠組みを見つけることが重要なんですよね。企業価値に影響を及ぼすものなんて、無数にあるし、全てのデータを手に入れるのは不可能。だから、説明力がこの程度になるようです。むしろ20%あったらすごいぐらい…

 一方で、説明力があるから現実に応用しやすいかというと、そうでもないことも多々あるのです。例えば、犯罪発生率を、人口で説明しようとします。たぶん、説明力は、非常に高いです。そりゃ人が増えたら、犯罪も増えるでしょうよ…。でも、この結果で、どんな施策をしたらいいか、難しいですよね。意味あるモデルなのでしょうか?

 こで、失業件数と人口で、犯罪件数を解析するためのモデルを組み、失業件数と犯罪発生件数に有意な関係性が見られたとします。失業件数だけで、犯罪件数の変化全てを説明することはできないけど、何かしらの施策は打つきっかけになります。(一例なので、すごい単純化した話ですよ)

 また、有意な関係性があるからといって、現実にすぐ応用できるかというと、そうは言い切れない。例えば、女性取締役比率が1%増えるにつれて、役員報酬が0.01%増える傾向が、上場企業で見つかったとします。現実的に考えるとインパクトが小さ上に、どう解釈すべきか難しいところ…。もちろん、その逆が発見されることも多々あります。いやー実証分析って、ほんまにムズイ。。

 

Q.4じゃあ、計量経済学から出てきた結果って、どう向き合えばいいの?

 説明力があるモデルと、その事象の枠組みを説明しきれる良いモデルは、違う場合があるのを、念頭に置く必要があるかと。そして、良いモデルができ、新しい傾向を見つけたとしても、Q.1に書いたような理由から、現実に応用するためには過信しないことと思います。

  

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(イラストは、ビジネスアイコン無料素材HPより)

 日々、マーケットと向き合っていると、過去のデータや傾向を見ると、株価は上がりそうとの予想が出てきても、企業訪問やCEO取材をして、やっぱり上がると思えないわ…というこも多々あります。その後に下方修正が…ということも無きにしもあらず。。モデルで100%説明しきれないだけに、やっぱり何かを判断する時は自分の直観力って重要だと思うんですよね。成績を出し続けるファンドマネージャーの方や、M&Aの超プロの方に話を聞いても、物凄く自分の感覚を大事にされています。経営者やステークホルダー表情、言動、人柄、企業歴史という、数字や理論で解明できん調査怠ってあかんわけです。

  物事を俯瞰する立場の人や、大胆な施策を行う役割の人にとっては、こうした実証分析に基づいた判断は非常に重要です。私たち個人にとっては、他者と比べるツールとして使うだけでなく、その結果が100%自分に当てはまるとは限らないのだから、一般事象と比較しすぎても意味が無いかも!と割り切ってみるのはどうでしょう?

 

 

Q.5で、冒頭にイエレンさんの写真があった理由は?

 それは、イエレンさんの言動を分析するには、計量経済学との付き合い方を再考するべきと思うことがあったからです。先日、あるジャーナリストの方と、米FRBが9月利上げをしなかった理由や、イエレン議長が何を見ているのか?という話になりました。なるほどなーと思ったことがありました。で、その方は…

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(写真はWIKIPEDIAより)

 理論で説明できるものは議論の対象になりにくい。理論で説明しきれないことだからこそ、騒がれるし、注目される。そして、理論で説明できない環境の中で、イエレンさんや、権威ある人達は、決断をしなくてはいけない。そうなった時、何を拠り所に決断するのか? それは、その人の経験、生い立ち、価値観が大きく影響してくるだろう…だから、単に理論的な枠組みを見るのでなく、そうした権威ある人たちの生立ちや、価値観を知る必要があると…、仰ってたんですよね。

 この話は、Q1~4に書いた計量経済学との付き合い方を示していると思うんです。モデルで説明、予測しきれない部分を知るためにも、こうした視点って、マクロ経済分析にも、企業価値分析にも…すべての分野で必要だなーと。頭でっかちになったらあかんわけです。。

 

 愛をもって問題意識をとらえて、時間をとことん費やす勇気をもって、結果を過信しすぎず、直観力の要素も考慮して、計量経済学と付き合っていきたいです。だって、世の中には説明しきれない変数が多すぎるから。

 本当の分析は、日々の小さな分析を積み重ねて、直観力を磨くことなのかもしれません。

 

ながーいのに、読んでいただきありがとうございます!

引き続き、応援よろしくおねがいします!

 

崔真淑/さいますみ

 

 

「女性活躍推進法案」は、日本だから効果がジワリでてくると思う理由

みなさまこんばんは!

 Good News and Companies代表で、マクロエコノミストの崔真淑/さいますみです。

 8月28日に「女性活躍推進法」が成立しました。今回は、推進法の中身と、私たちの生活にどんな影響力を持つかを考えていきます。

 

Q1.そもそも「女性活躍推進法」では、どんなことが義務付けられているの?

 2016年4月からスタートします。中身は、従業員301人以上の企業・公的機関は、社員・役員の男女比率データや、女性登用のための行動計画の公表が求めらています。中小企業は、努力目標とされています。

 しかし、数値目標を法律で定めることは見送られました。また、法律に従わない場合は罰則規定はありません。(虚偽記載をした場合は罰則あり) 罰則規定も数値目標も定められていないので、女性活用への効力がないとの批判が出ているのも事実です。例えば、ノルウェー、ドイツでは上場企業の女性取締役比率が義務つけられたり、その他の欧米諸国でも義務付けはなくても目標値を定める国は多いですしね… 

 

Q2.ほんまに、女性活用に効き目あるん??

 ただ、私は日本だからこそ、効き目がじわり出てくるように思います。例えば、JPX日経400という株式市場のインデックスがあります。これは、日本の上場企業ROE(=株主等から投下された資本に対して、どれだけ収益を上げているかを見る指標)の改善や、投資家からみて魅力的とされる企業を増やすために、導入された指標です。

 この指標が導入された時も、その指標に組み込まれたいからって上場企業が、ほんまに頑張るとは思えんなー等々、いろんな意見が出てきました。しかし、ある機関投資家の方が「日本は恥の文化。嫌な目立ち方はしたくないはず。効果はあると思うよ」と、仰ってたんですね。結果、JPX日経400が導入されてから、ROEを意識した情報開示をする企業は増えているようです。私は、これと同じことが、「女性活躍推進法案」でも起きるのではないかと考えています。(もちろん、女性活用≒企業価値向上、ROE向上と必ずしもなるわけではないのは各研究から示されているので、まったく同じとは思っていませんよ。ここでは、恥の文化について言っているだけですよん。)

 

Q3.他にも同じような事例はあるの?

 上場企業の企業価値を高めるために制定された、コーポレートガバナンス・コード(上場企業の企業統治に関する上場規則)も、法的拘束力はありません。しかし、Comply or Explain=実施するか、実施しない場合は説明せよという原則に基づいており、嫌な目立ち方を嫌ってか、ほとんどの上場企業が受け入れています。実際、コード発足1ヶ月後の実施状況を見ると、東証一部・二部企業では30社ほどしか実施しない説明をしているに留まっています。

(もちろん、このコードの中身に対しても、いろいろ言われてはいるようですが…)

 

Q4.で、今の女性の就労率ってどうなの?

 ということで、恥の文化を意識して女性活用は進むような気がします。同業界の同規模の企業が、積極女性登用をしていたら追随せざるおえないような空気が流れてくるかと思われます。情報開示、目標設定に積極的な場合は、事業入札でも優遇措置をとるようですしね。

 アベノミクスは始まってから、女性の就労率は右肩上りが続いています。ただし、実態は非正規雇用の増加していることや、賃金面での格差が大きいのも事実。他国に比べて、就労率は低いのも事実。(実は、アメリカは右肩さがりで、数字だけをみると日本と同水準なんですね。

 女性の就労環境については、9月一回目の日経CNBC「崔真淑のお金に好かれる働き女子学」で、働き女子先進国の現状に迫ります!こちらもよろしくです!

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(制作:日経CNBC「崔真淑のお金に好かれる働き女子学」制作メンバー、日経映像、テイクワン)

 

今日も読んでいただきありがとうございます!

応援いつもありがとうございます!

 

崔真淑/さいますみ