”さいますみ/崔真淑”のオイコノミクス

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計量経済学を勉強して、反省したこと。なぜ、分析には「愛と勇気と直感力」が大切なのか?

 みなさま、こんばんは!

 Good News and Companies代表、マクロエコノミストの崔真淑/さいますみです

 今日は、私が勉強する中で、反省したことを徒然に書きます。戒めを込めて書きます。この経験が、誰かの役に立ちますように…。 (長いんで、Q1、4,5だけでも!)

  

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(写真は、WIKIMEDIAより。なぜ、FRB議長イエレン氏の写真があるかは、Q5で見えてきます(汗))

 

Q.1で、反省したことってなに?

 ただいま、修士論文作成に奮闘中の私です。データ収集はもちろん、実証研究論文を深読みしつつ、データ分析のための計量経済学の復習をしています。どんなモデル手法で分析すべきか、さまよっています。そんな、計量経済学に全力投球です!という時に、TwitterでBuzzっているAmzonレビューを見つけました。

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 レビューは、某国立大学の先生にTwitter上で教えてもらいました。レビューの中では、実証研究から解明できることは、あくまで平均的な傾向。結果に対する説明力は約5-15%程。計量経済学の結果から出てきた有意な説明力と、現実への説明力とは違う!ということが書かれています。計量経済学の手法から導かれた結果と、どう付き合うべきかを的確に示していると思います。

 マクロな政策というのは、平均的に効果の出る施策を行うことだし、政策関係者にとって計量経済学による実証分析は重要。個人レベルでは平均的な結果だけに囚われるのでなく、自分の環境と向き合い、残りの85%を埋めるために、どう努力するかをすべきでは?とヒントを示しています

 計量経済学で導かれる結果を万能とは思っていませんが、ここまで的確に整理できていたかというと…反省。。 なぜ、マクロな視点と、ミクロな視点を使い分ける必要があるのか。そして、社会科学との付き合い方が見えてきますよね。

 

注)ちなみに、本の著書である慶応義塾大学の中室先生は、NewsPicksプロピッカー第一期のお仕事でお世話になりました。献本して頂き、非常にわかりやすく、多くの論文や実証分析からの話が、俯瞰できます。まだ子供のいない私ですが、一つの指針にしたいと思ってます。 今回のブログは、あくまでレビューから考えた計量経済学との付き合いからにフォーカスしています。

 

Q.2これって、あなたの研究テーマでも同じようなことあるの?

 めっちゃ、あります。私の研究テーマは、上場企業を取り巻く制度変更と、それによる企業価値と雇用の変化について。アベノミクスが始まり、コーポレートガバナンスコードが制定され、女性の活躍が推進されました。国内の上場企業の環境は大きく変化しています。欧米では、こうした動きは既に起きており、海外論文を参考に研究を進めています。

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(写真は、精読中の論文さんたち~)

 

 精読中の論文には、女性取締役を義務化導入国の、上場企業の企業価値の変化や、ガバナンスが相対的に低い企業に、女性取締役が入った場合の影響…etcが測定されています。その他にも企業価値に関する論文をいくつか見ていますが、企業価値の予測や関係性を分析するために考えられたモデル(=その事象を解明しようと構築された、枠組みです)による、その企業価値の変化に対する説明力は10-20%ぐらいが多いですっ(`・ω・´)キリッ(論文は私が見た限りですけどね…。モデルの一例は→Y=α+β1X1+β2X2+εのような形をしたのとか)  

 

 

Q.3 説明力低くて、意味あるの??

 えー低い!と思うかもしれませんが、平均的な傾向と枠組みを見つけることが重要なんですよね。企業価値に影響を及ぼすものなんて、無数にあるし、全てのデータを手に入れるのは不可能。だから、説明力がこの程度になるようです。むしろ20%あったらすごいぐらい…

 一方で、説明力があるから現実に応用しやすいかというと、そうでもないことも多々あるのです。例えば、犯罪発生率を、人口で説明しようとします。たぶん、説明力は、非常に高いです。そりゃ人が増えたら、犯罪も増えるでしょうよ…。でも、この結果で、どんな施策をしたらいいか、難しいですよね。意味あるモデルなのでしょうか?

 こで、失業件数と人口で、犯罪件数を解析するためのモデルを組み、失業件数と犯罪発生件数に有意な関係性が見られたとします。失業件数だけで、犯罪件数の変化全てを説明することはできないけど、何かしらの施策は打つきっかけになります。(一例なので、すごい単純化した話ですよ)

 また、有意な関係性があるからといって、現実にすぐ応用できるかというと、そうは言い切れない。例えば、女性取締役比率が1%増えるにつれて、役員報酬が0.01%増える傾向が、上場企業で見つかったとします。現実的に考えるとインパクトが小さ上に、どう解釈すべきか難しいところ…。もちろん、その逆が発見されることも多々あります。いやー実証分析って、ほんまにムズイ。。

 

Q.4じゃあ、計量経済学から出てきた結果って、どう向き合えばいいの?

 説明力があるモデルと、その事象の枠組みを説明しきれる良いモデルは、違う場合があるのを、念頭に置く必要があるかと。そして、良いモデルができ、新しい傾向を見つけたとしても、Q.1に書いたような理由から、現実に応用するためには過信しないことと思います。

  

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(イラストは、ビジネスアイコン無料素材HPより)

 日々、マーケットと向き合っていると、過去のデータや傾向を見ると、株価は上がりそうとの予想が出てきても、企業訪問やCEO取材をして、やっぱり上がると思えないわ…というこも多々あります。その後に下方修正が…ということも無きにしもあらず。。モデルで100%説明しきれないだけに、やっぱり何かを判断する時は自分の直観力って重要だと思うんですよね。成績を出し続けるファンドマネージャーの方や、M&Aの超プロの方に話を聞いても、物凄く自分の感覚を大事にされています。経営者やステークホルダー表情、言動、人柄、企業歴史という、数字や理論で解明できん調査怠ってあかんわけです。

  物事を俯瞰する立場の人や、大胆な施策を行う役割の人にとっては、こうした実証分析に基づいた判断は非常に重要です。私たち個人にとっては、他者と比べるツールとして使うだけでなく、その結果が100%自分に当てはまるとは限らないのだから、一般事象と比較しすぎても意味が無いかも!と割り切ってみるのはどうでしょう?

 

 

Q.5で、冒頭にイエレンさんの写真があった理由は?

 それは、イエレンさんの言動を分析するには、計量経済学との付き合い方を再考するべきと思うことがあったからです。先日、あるジャーナリストの方と、米FRBが9月利上げをしなかった理由や、イエレン議長が何を見ているのか?という話になりました。なるほどなーと思ったことがありました。で、その方は…

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(写真はWIKIPEDIAより)

 理論で説明できるものは議論の対象になりにくい。理論で説明しきれないことだからこそ、騒がれるし、注目される。そして、理論で説明できない環境の中で、イエレンさんや、権威ある人達は、決断をしなくてはいけない。そうなった時、何を拠り所に決断するのか? それは、その人の経験、生い立ち、価値観が大きく影響してくるだろう…だから、単に理論的な枠組みを見るのでなく、そうした権威ある人たちの生立ちや、価値観を知る必要があると…、仰ってたんですよね。

 この話は、Q1~4に書いた計量経済学との付き合い方を示していると思うんです。モデルで説明、予測しきれない部分を知るためにも、こうした視点って、マクロ経済分析にも、企業価値分析にも…すべての分野で必要だなーと。頭でっかちになったらあかんわけです。。

 

 愛をもって問題意識をとらえて、時間をとことん費やす勇気をもって、結果を過信しすぎず、直観力の要素も考慮して、計量経済学と付き合っていきたいです。だって、世の中には説明しきれない変数が多すぎるから。

 本当の分析は、日々の小さな分析を積み重ねて、直観力を磨くことなのかもしれません。

 

ながーいのに、読んでいただきありがとうございます!

引き続き、応援よろしくおねがいします!

 

崔真淑/さいますみ